ツバメのヒナを育てるのは今始まったことではない。何年も昔、やはり同じ教会のツバメのヒナを世話したことがある。親が一羽の弱弱しい子を巣から突き落とすのだ。何度入れてやっても突き落とし、ヒナはその都度爪でかろうじて巣にぶら下がって牧師先生に見つけられる。しまいにその子だけ残して兄弟は巣立ってしまい、親ももどってこなくなった。こうなると人間の親が子を虐待して殺してしまうのを責められるのか、と考えてしまう。その子を育てたのだが、親が見捨てるようなヒナだ。なかなかまともな成鳥にならず、1mくらいしか飛び上がれない。距離は隣の部屋まで飛ぶのがやっとだから6mほどで、これではとても南の国へ飛んで行くなど夢である。夏子だったから、その秋は諦めて我が家で越冬させ春に戻ってきた連中と合流させよう、ということでセッセと世話をした。エサはミルワームだけで、当然栄養が偏る。色々な虫を与えないとダメなのだ。ヒナは一日に200匹の虫を食べると言う。山奥に住んでいる、よほどの閑人でなくては野生の虫を200匹捕まえてくるのは無理だ!
その子は栄養失調で目がおかしくなった。涙が出て出てマブタが腫れあがり、まともに明かなくなった。あわてて獣医に相談し、ビタミン液をもらいミルワームに液をチョンとつけて食べさせ、目は治ったが、次にさる獣医師が練エサも与えて良い、と言う意見でペットショップからオオルリ用の最上等の練エサを買って与えたのだが、糞詰まりを起こしてしまった。全部フンが出るまでヒナは気張るしヤキモキである。練エサをよく調べてみると小麦粉が含まれていた。ツバメを百科事典で調べると、完全な動物食と書いてある。まったく!プロの方々ならきちんとした知識を持ってくださいよ、と頭にきたのは言うまでもない。次に起こったのは捻挫だ!数m飛んで下りる時は胴体着陸である。足が弱かったのだと思う。ヒトが行くところに付いて来たがり、1mの高さで飛んでは胴体着陸をやったあげく足の関節を痛めた。
関節は赤くなって腫れ、いざって歩く。放っておけず、隣町の動物病院へ連れて行った。緩い抗生剤をもらい、あまり飛ばさないようにと言われる。料金は取らなかった。野鳥を保護している方からは貰わないそうだ。本当に何だかんだと問題が起きる。一番困ったのは餌を与えないといけない、という問題。自分で食べないからいちいちピンセットで虫をはさんで与えなきゃならない。母親が手伝ってくれたが、二人そろって外出するときは3時間くらいで慌てて戻らなくてはいけない。落ち着いて家を空けられなかった。そして、冬になると24時間の暖房だ。さすがに秋も深まった頃は小さいながらも大人になって羽がきれいになり、口ばしの黄色いゴムは取れてしまった。当時は石油ストーブを使っていたので、危ないことではあるがツバメのカゴの横側からストーブで温めて、夜は平たいアンカを使った。
冬の間中、ヒトがいる時はコタツの上にカナリヤの巣皿を置き、その上でツバメが陣取り相手をするとピーピーピーピー、チョチョチョチョチョチョと上手に歌って愛想を振りまいた。
しかし、ピーちゃんは春になっても十分な飛翔能力が身に付かず、合流することができなかった。