鳥と山野草の話

鳥類と山野草、主にシダ植物を書いたりします。

イヌシダ通信 すさんだ世の中 2

「8050問題を知っているわね、ハト子さん」「何ですか、8050って」ハト子再び鉛筆をなめなめマイクを差し出す。ルリ子さん、眉を吊り上げ「八千五十ではなくハチまるゴーまるよ。50歳を過ぎたコドモの引きこもりを80歳の親が面倒を見ている現実のこと」するとハト子、あんぐりと口ばしを開け「ニンゲンって変わってますね。あたしたち鳥類は、エサが自分で採れるようになったら、もう親がエサをくれなくなります。そして、巣から追い出されて、縄張りをウロウロしていると攻撃されます。もう、独り立ちを促され、親でも子でもなくなるのです。それを、50歳にもなって80歳の老親に面倒を見させるのですか!」ハト子、開いた口ばしがふさがらない。「すべてのニンゲンがそうじゃないわよ、ほんの一部のヒトたちのこと。まあ、彼らはたぶん病気なのですよ、まともなヒトなら仕事もしないで引きこもって、親の世話を受けたりしません。でも、親は子が死ぬまで傍にいて世話をしてくれることはありませんからね。普通は親が子よりも先に死にます。引きこもっている大方の子は、部屋でパソコンやスマホを弄って自分だけの世界に浸っているようです」「それはひどい!ひどすぎます!親も親ですね。自分が老いて行くのはわかるでしょうに、年金で面倒を見ているのですか」「たいていの親はね」「年金は大人になった子を養えるほどもらえないでしょう?」「もらえないでしょうね、貯金を崩しながらの生活になるはず」「政府は何を考えているのですか?」ハト子、歯がゆそうに口ばしを鳴らす!しかしマイクはしっかりとルリ子さんの口元へ差し出している。鉛筆をなめるのも忘れない。「だから8050問題ですよ。このまま放っておけば世話をしている親たちが死んで、引きこもっている子たちがさまよい出てきます。今でも60万人いるそうですから、もっと増えて大きな社会問題となります、というより、もうなっていますが、政府も行政も腰が重くて上がらないようです」「すさんでいますね、ひどい世の中です。われわれ鳥類を見習ってほしいですね」

「まあ、そう興奮しないで、ついこの間の新聞記事ですが、とある老夫婦と40代後半の引きこもり息子の話が出ていました」それはハト子たち鳥類に似た話で、十代から引きこもっていた息子が、朝、起きてみると、家にいるはずの親たちがいない。家の中を探すがどこにもいず、しかも、布団から食器にいたる生活用品まで見当たらなかった。そして、テーブルの上に、困ったら市役所に行って相談しなさい、と書いた手紙が置いてあった。これ以上世話を続けたら共倒れになる、と踏んだ、両親の英断である。この記事を見て、ルリ子さんは「よくやった!」と手を叩いたそうだ。「その後、この息子はヘロヘロになりながら市役所に行き、生活保護を受けさせてもらい、カウンセラーも受けて、家の中でできる仕事を見つけて、なんとか暮らしているそうよ。そして、年に二回、住所のない親からの手紙が届くとか」元気にしていますか、と。ハト子、うんうん、うなづきながら鉛筆でメモをした。「甘えるな!とあたしは言いたい!面倒を見るのは親ではなく、あんたたちコドモでしょうが」「まあね、スマホもパソコンもないほうが、彼らには良いのかもね」ルリ子さんはため息をついた。