鳥と山野草の話

鳥類と山野草、主にシダ植物を書いたりします。

叔父さんちのアオバズク

夏、寝床に入るとどこからともなく「ホーホー!ホーホー!」と鳴く声が聞こえてくる。最初は何の鳴き声なのか全くわからなかった。アオバズクというフクロウの一種が鳴いているのだと知ったのは、随分後のことである。声の主がわかっても姿を見ることはできない。なにしろ裏山あたりから聞こえてくるのは夜だから。アオバズクの声はテレビで知ったので、鳥類図鑑を開いて一応絵で姿を確認した。本物を見てみたいものだと思っていた時、親戚から母の弟になる叔父がフクロウのヒナを拾って世話をしているらしい、と聞いた。フクロウだってめったにお目にかかれない。これはぜひ見に行かねば、と母を連れて用もないのに10キロ離れた山奥の叔父の家を訪問した。

叔父は母屋から50mほど離れた田んぼの中に、自分で小屋を作って住んでいる。八畳ほどの広さの部屋にタンスやテレビコタツが置かれていて、孫がもらってきたイヌと一緒に寝起きし、食事も簡素な台所で作るとのこと。妻も長男夫婦も母屋にいるのに変わったヒトだ。叔父のカミさんが言うには、長男の嫁の食事が気に入らないからだ、と聞いた。

小屋は横の農機具倉庫から3mくらい離して建てられ、下屋根で繋いである。拾ってきたフクロウとやらは、その下屋根下に置かれたトリ小屋にいた!覗いてみると、もうすっかり羽が生えそろった立派なトリで、フクロウではなかった。「叔父さん、これ、フクロウとちゃうで!」と意見する。「ほうか、ほんならナンヤ?」「アオバズクという夏だけいるフクロウの親戚や。ホーホーって鳴くでしょ?」「ああ、最近、夜になるとそう鳴きだしたナ」どこで拾ったのか、と聞くと、小屋の横の桑の木の下にいた、という。何時間たってもそこにいるので、ネコにでもやられてはいけない、と思い保護したそうだ。エサはトリのササミだという。なんと贅沢な!良く慣れて手の上でエサを食べるそうだ。フクロウにしては色が違うし、顔つきも異なると思っていたが、アオバズクなどというトリだとはわからなかったとのこと。トリはホーホーと鳴くのでホーちゃんと呼んでいるそうである。さすが我が叔父だ。名前の付け方が同じで、じつに適当だった。血縁をしみじみ感じる。「野鳥は飼ったらアカンのよ」と再び意見した。「ああ、一人餌になったら放す」もうなっているのでは?と思ったが、可愛がっとるんよ、と義叔母が言うのでそれ以上は言わなかった。ホーちゃんは叔父以外のニンゲンの手には乗らないらしい。なかなか賢い子だ。そっと手を出してみたが口を開け、翼を広げて威嚇する。30センチはある鳥体で爪も鋭い。さすがに猛禽の仲間だ。「叔父さん、秋になったら南の国へ旅立つんやで、ツバメと同じやからね」「ほうか、だったら10月の中頃までやな」あと二か月ほどだが、間に合うのか?一人餌になっても自然界でエサを獲れるか疑問だ。アオバズクはネズミやカエル、ヘビなどを捕らえて食べるという。カブトムシなどの虫もいけるらしい。しかし、親から訓練を受けていないのだ。難儀なことである。まあ、あまりクドクドいわず、じゃあね、とジャガイモや玉ねぎ、キャベツなどをしこたませしめて叔父のボロ小屋を後にした。

数か月後に電話で聞いのだが、ホーちゃんは夜、桑の木に乗せておいてやったらいなくなっていたそうだ。