鳥と山野草の話

鳥類と山野草、主にシダ植物を書いたりします。

気難しい植物 イワナシ

イワナシというツツジ科の植物が、近くの里山や渓谷の岸壁にある。低木で地に這うように生育していて、花は釣鐘のような可愛いピンク色で、三つ四つ房状に咲かせる。山野草をやっている知り合いは、大抵一度や二度は山から採ってきて鉢に植えてみた者が多い。標高300から400m以上の場所にあり、滝の近くの岸壁によく見られるので、ちょいと車でひとっ走りすれば採取できる。小さな実が生り食べると梨の味がするのでイワナシと言うのだそうだ。そういうことを聞くと、なんと楽しそうな山野草ではないか。これは一鉢作らねば、と愛好家駆け出しの連中は必ず思う。かくいう私もその口で、山野草の会の会長に連れられて隣町の白糸の滝という滝まで遠征した。白糸の滝と言っても富士山のふもとにある有名なそれとは違う。呼び名が同じだけで、行ってみれば、どこが白糸なのか、白糸より布が垂れ下がっているように見えるが、と言いたくなる滝だった。めざすイワナシは駐車場の横にある道路沿いの切通しに沢山へばりついていて、へえ、これがイワナシ!初めて見た!と少々感激する。イワナシの傍にはオオイワカガミという高山植物のイワカガミを三倍くらい大きくしたそれの変種が群生していた。イワカガミより数段作りにくいと会長が言う。せっかくだからとイワナシの子株と一緒にオオイワカガミも少し引っこ抜く。行った者全員がどちらも採取して勇んで帰った。見た目は花の時期を過ぎておりたいして綺麗でもなんでもない。次々と来る観光客は、あのおばはん達、草刈りか?と言った目で見て通って行く。滝までは車で40分ほどかかった。植物を採取するのはほんの15分ほど。滝の遊歩道を20分歩いて行くものの、何もない。マムシにでも逢わないうちにと、すぐに戻ったわけだが、イワナシを植えている最中に手がつかえて枝を一本折ってしまった。もったいない!その枝を横にあった直径50センチの大鉢にグシャリと挿す。そこは植え替えに使った古い土を捨てていた鉢だ。横には1m下に川から流れてくる30センチの側溝がある、日当たりの悪い北側の場所。大鉢にはハイゴケが生えていた。肝心の株を5号の駄温鉢に植えつけ、オオイワカガミは四角のプラスチック製平鉢に鹿沼土で植えてみる。イワナシは大切に管理したが、三か月も持たなかった。他の方々にも逢ったとき尋ねてみたが、誰もうまくいった者がいない。山には毎週のように出かけていたので、別の場所で見つけたイワナシを採取しては挑戦したが、みな枯らしてしまう。土を変えたり置き場所を変えたり、あの手この手で植えては管理したが、上手くいかない。しまいにウンザリしてきて、もう作るな、という意味だろう、と栽培を諦めた。私と同じことをやっては失敗した草友の多いことか。結局、全員惨敗と言いたいが、なんと、イワナシにバカにされて半年後、水やりをしていて、あの土捨てにしていた鉢をひょいと覗いて驚いた!折った枝をつい挿したイワナシが根を下ろして、枝も伸ばし青々と茂っているではないか!これはでかした!急いで油粕の玉を一つ与え、ついでにHB101という活力剤をサービスしておく。

現在、この株は50センチ鉢いっぱいに茂り、春には花を咲かせ来訪する植物愛好家へ自慢のタネになっている。たぶん、側溝の流れが程良い湿り気を与えたのと、巨大すぎる鉢に植えられて株にも常に湿気がある状態になっていたのが幸いしたのだろうと思う。その後、次々にできる草友たちがイワナシ栽培にアタックするが、誰も成功していない。