鳥と山野草の話

鳥類と山野草、主にシダ植物を書いたりします。

エビネは日なたが嫌い

私の住んでいる町は小さいながら一応市である。平成の大合併で四町が一緒になって市政を敷いた。しかし合併当時は3万人以上あった人口も、今ではそれを切っている。住民は高齢者が多く年ごとに減って行き、若者たちは都会へと流れて行って、日本の縮図と言える。そんな山に囲まれた田舎の街に、10年ほど前、町の総合病院が新築された。町政の頃からある病院だが、市になったのでいっそ新築を、と考えたのは誰だろう?建て増し建て増しで広い敷地に棟ばかりあって、非常に効率が悪いのは確かだったが、ベッド数400以上、医師も科もけっこうあり立派な病院に思えたのだけど、工事は棟を少しずつ崩しながら、病院を休むことなく続けられて、3年で11階建ての主棟が完成した。まだ新しかった棟はそのまま残して外廊下で繋ぎ、南北に広い駐車場、敷地の外の県道沿いには調剤薬局が7軒ほど建った。工事を担当したのは関東の方の大きな建設会社だったそうだが、正玄関が東に対して西側に西口がある。西でも遮るものがないと日が半日は当たる。その西側の庭園部に、なんとエビネがぎっしり植えられた。何百株もの地エビネだ。地エビネは日本のあちこちに自生するランの一種だが、開発のせいで少なくなり絶滅危惧種に指定されている。我が町の里山に行けばちょこちょこ自生に出くわすが、ほとんど森の中の日があまり当たらない所に生えていた。園芸店にも売ってあるが、一株700円から1000円、色が珍しい物は数千円、数万円の物もある。関東の業者が植えつけた株は、たぶん種を播いて殖やしたか成長点培養で殖やされた物だと思う。しかし、なぜエビネなのだ!この日当たりのよい、しかも夏には36度以上の日が延々2か月は続く、厳しい環境の地に!地元の業者ならこんなバカなことはしない。関東モンは田舎でエビネを植えておけば、大喜びをする、と思ったのではないか?せめて樹木があり日が当たるのは2時間くらい、というのなら許せる。ところが冬場はあまり当たらなくても夏はガンガン照りになる場所なのだ。それを目にして少々ゲンナリした。病院の事務局にせめて夏には水やりをしろ、と忠告したが、馬の耳に念仏である。エビネは夏を迎えて少しづつ弱って行き、葉が赤くなり勢いがなくなって、群落から歯が抜け落ちるかのように姿を消していった。三年も経つとほとんどの株はなくなった。今では真砂土の上にコケが生えているのみ。水も肥料も貰えず、ひどい仕打ちを受けたエビネ。関東のゼネコンは予算が余ったので、なんとか帳尻を合わそうとしたのかも?

エビネ地エビネの他、ニオイエビネとかキエビネオナガエビネ、ナツエビネなんてのもある。交配させて自然界にはない美しい色合いの銘が付いた物など色々だが、日なたに地植えしてよい品種は全くない!私もニオイエビネを作っているが、隣の家との境の犬走に置いていて、夏は斜めに南の日が1時間くらい当たる。夏場の水やりは欠かせないので家を空けることはできない。行政は税金を使うのなら、細かいところまで調べ上げてから決めるべきだ!