鳥と山野草の話

鳥類と山野草、主にシダ植物を書いたりします。

小型のシダ ヌリトラノオ

ヌリトラノオをトイレに置いた。夏から秋にかけて台所のシンク横に置いていたが、そろそろ台所で越冬する植物が増えてきたので、トイレのタンクの上に作った板棚に引っ越してもらったのだ。ヌリトラノオは珍しいシダではない。我が町にはシモツケヌリトラノオが群生している岩があるのだけど、こちらの並みのヌリトラノオはあまり見当たらない。しかし、シダの専門家が見れば目の色を変えるのはシモツケの方らしい。作りにくいのはどちらもだが、並みのほうが作りやすいみたいである。私以外は!ヌリトラノオはチャセンシダの仲間で、よく似ているが、チャセンシダは踏んづけて通るほど生えているので、そう欲しくない。ヌリトラノオの方が好きで、各地の草友から頼んで送ってもらうのだが、うまく作れたためしがない。せいぜい半年で、それ以上は持たせられない。置き場所、鉢の種類、植え込み材料、とあの手この手で変えてみるがシモツケと同じく見事に枯らした!だいたい生えている所を見たことがないのだ。これは栽培者にとって条件が悪い!

ある時、同好会の草友四人で隣町の渓谷に出かけた。車で20分ほどの所に渓谷の入り口がある。渓谷に入ると細くくねった上り坂の林道に右側は崖下が沢になっていて、かなり危ない場所が続く。目指すはトテの三滝という三つの滝だ。渓谷からさらに右に入る支流で、広い駐車場に車を止めて置く。そこからは歩きだ。沢に沿って上流へ歩くとすぐに一の滝がある。さらに上流へ上ると今度は二の滝で、次が三の滝だが、そこまでが超急坂で掴まれるようにロープが張ってある。フウフウ言いながらやっとの思いでたどり着いた。三の滝は一番大きく立派な滝であった。ヌリトラノオを見つけたのは帰り道、一の滝の横にある岸壁だった。初めて見るヌリトラノオの自生!感激したが、一緒の三人は肩をすくめただけで、鼻も引っ掛けない。一株だけ抜いて持って帰ったが、滝の傍ほどの環境はとても作れず見事にダメにした。まあ、どうせそのくらいだろう、と一株だけ頂いたのだが。

自生地を目にして、相当の湿気と涼しさが必要なシダだとわかった。今まで外で栽培してばかりだったが、これは家の中でビニールを被せて湿度と温度管理に目を光らせる必要がある、と感じた。そんなことをしているのは希少種で絶滅危惧種のヒメタニワタリくらいだ。ヌリトラノオと比べたら王様と乞食ほどの差があるシダなのだ。しかし、私にはどちらも同じくらい大切なシダ!その後、千葉県の草友にお願いしてヌリトラノオを送ってもらい、今度こそ、と意気込んで鉢に植えた。鉢は15センチの深さで直径は10センチ、少し厚みのあるプラ鉢でタンブラーのような形の物。底に軽石の大粒を敷き上部は5センチ残してセントポーリアの土に腐葉土を三割、軽石一割を混ぜて植えつけた。フカフカの土にマグアンプK大粒を3個置く。水をかけて土を染み込ませた後は、表面が乾くまで与えず、後は底面冠水にする。そして、カップ焼きそばの入れ物を鉢敷に使い、四隅に割り箸を立ててから透明なビニール袋をすっぽりと被せた。袋のてっぺんは拳が入るほど穴を開けておく。これで夏はエアコンの効いた台所に置き、冬はトイレの棚に移動となって、もう数年たつ。初め一株だったヌリトラノオは葉の先から無性芽を出して、段々に大株となってくれた。バンザイ!