鳥と山野草の話

鳥類と山野草、主にシダ植物を書いたりします。

カラスは肉が好き!

兄が経営する、手芸品製造の工場に勤めていた頃の話だが、中学校の傍にあった工場は道路に長細く沿った建物で、屋根やクーラーの室外機に野鳥たちが好んで営巣してくれた。キセキレイセグロセキレイ、スズメ、カワラヒワなどに人気があった。田舎なので空いている所に路上駐車して、工場の中に入る。客が来ていると後ろのほうに停めて歩かねばならない。昼食を取りに帰って工場に戻ると大抵ヒトがきている。歩かされる。

ある日のこと、一番後ろの電柱横に止めて車から出たが、なんと前をカラスがのっしのっしと歩いている。追い越したかったが驚かせたら悪いか?と遠慮して後ろからゆっくり歩いて付いていった。工場の入り口を素通りするのかと思ったら、なんと中に入っていくではないか!「ちょっと、ちょっと、何なの?きみは?」入り口はシャッターなので終業まで閉めないから、誰でも無礼講だ。小鳥やハトなどが入ってくる。迷惑なのはヘビだ!じめじめしているわけではないのに、ネズミでも追ってくるのか?フェルトや毛糸などを扱っていたから、たぶんネズミが多かったと思う。だからカラスも入ってきたのか?どういうわけか今日はこのカラスが出たり入ったりするという。ヒト慣れがしていて、傍に寄っても逃げない。それどころか、人の顔をじっと見て、なんかくれ、と物欲しそうだ!真っ黒のスリムな個体はきれいで品があった。ハシボソガラスである。せっかくなので兄が飼っているダックスフンドの餌を一つまみもらって、カラスの前に数個落としてやる。彼は(彼女かもしれないが)一つついばんで食べたものの、残りは食べないでくるりと回れ右をして出て行ってしまった。

なんだ、あいつ!礼くらい言え!と呟きながら靴を脱いで上に上がったが、従業員の面々がクスクス笑っている。お菓子をやったら食べたらしいが、ドッグフードは好みじゃなかったか?聞けば近所の家が飼っているようだ、とか?また、お菓子をもらえる、と思って来たのじゃないの?とアルバイトのおばちゃんがのたまう。「上川さんとこのトリみたいよ」と教えてくれた。カラスが帰って5分後に配達の用ができて、車を出すため外に出ると、ちょうど車の横を先ほどのカラスがのっしのっしと歩いて行くのが見えた。それを見送っていると彼は上川さんの家に入っていった。やっぱり、あそこの家のカラスだったのか。家は玄関の引き戸が大きく開けてある。中に鳥かごでもあるのか、と覗きに行ったら、家人がカラスに餌をやっている。トレーに入った生の牛肉だ!それを箸でつまんで与えていた。「大好きなんですよ!」「はあ、そうなんで!」これはドッグフードなんか口に合わんわ!カラスは性別不明だがカア子と呼んでいるそうで、べつに飼っているわけではないらしいが、ときどきやってくるので牛肉をサービスしてやるのだ、とのこと!