我が家の傍には一級河川の支流が流れている。支流と言っても大川だ。500mほど下れば本流と合流する。大きな台風が来れば溢れそうになり、ここに流れ込んでいる小川は逆流して、その地域を水浸しにしてくれる。この支流はY川といって上流には50年くらい前に閉山した金鉱山があった。江戸時代はもちろん幕府直轄の鉱山で、Y川から砂金が採れたので上流を探索して金山が見つかったという。金山跡に行けば金を採掘した時の土がボタ山のように積み上げてある。仕事でよく近くまで行ったが、このボタ山に金が残っていないのか、と良く思ったものだ。この山の金は鉱石にベチャっとくっついている珍しい自然金である。我が家にもこの鉱山からくすねてきたのをもらった、という原石がある。金がくっついているが、0コンマ何グラムくらいの重さだろう。父が鉱山関係の友人からもらったそうで、その友人はどうやって鉱山から持ち出したのか、ちょっと不思議だ。Y川で砂金を採ったこともある、と言っていたらしいが、一日中ザルを構えてゆすっても1グラム採れたら良いほうで、土方にでも行って仕事をした方がカネになるとのこと。昔は今ほど金が高くなかった。今ならグラム7000円近いから、1グラム採れたらちょっとした小遣いになるのではないか、と思う。しかし、川の水は冷たいし水量は多い。腰をかがめて後で体を痛めるから、割に合わない仕事だ。それに気を付けないと川の岸辺にはマムシがウヨウヨいる。私は子供のころ、親に長靴を履くときは一度ひっくり返してから履け、と言われていた。長靴の中にマムシが入っていることがよくあるらしい。夜はつっかけで暗い所を歩くな、とも言われた。夜はマムシが活動するからだ。市内のずっと奥に住んでいる叔母の家は田んぼの真ん中で、夜になったらマムシが犬走りを何匹も這いまわる、と聞いた。叔母の旦那は二度も噛まれたそうだ。ゾッとする話である。だから、なるべく夜は家の外に出たくない。まあ、砂金を採る人はマムシなんかこわくないのだろう。今は砂金採りをする者など見たことがない。奥の金山は金が出なくなって閉山してしまったのだから、川の砂金ももうとっくに下流へ流れて行ってしまい、欠片もないに違いない。閉山した鉱山街はヒトがいなくなり寂れてしまった。今では鉱山から出てきた金の原石やアンチモンなど他の原石を展示している建物が建っている。