イヌシダ通信社の伝書鳩ハト子は、久しぶりに休暇をもらったので、ニンゲンの友人である東田ルリ子さんに会いに行くことにした。コロナで忙しかったが休ませてもらえるので、気になっていることを聞いてみようと考えていると、編集長が海沿いに南下するのはミサゴやカラスなどうるさい連中が多いから、隼タカオを連れて行け、と言う。その代わり出張扱いにしてやる、と。タカオは大喜びだ。「僕は西日本に行ったことがないんです」「遠いわよ、東京からいったん新潟に抜けてね、それから海沿いに南下するの。まあ、あんたは大陸まででもひとっ跳びだけどね」ハヤブサは鳥類の中でも飛行速度がダントツだ。伝書鳩もそこそこ早いがハヤブサにはかなわない。それに彼を連れていればカラスやミサゴも襲ってこない。良い用心棒だ。
ルリ子さんに逢うのは何か月ぶりか?行くとメールしておいた。きっとおいしい豆菓子を用意しているだろう。その期待は想像通り!「まあまあ、お久しぶり!今日は素敵な若い記者さんを連れて来たのね、若鳥のカラアゲを用意したわよ」ルリ子さんの言葉にタカオの冠毛がピンと立つ。なんてラッキーなんだ、カラアゲだって、その目が輝いている。テーブルに着いてお茶とお菓子をいただく。タカオはカラアゲだ。「どうです、給付金は届きましたか?」ハト子が尋ねた。「つい先日に入金されたわよ。助かるわ、少ない年金暮らしですもの」「マスクはどうです」今度はタカオが訊いた。「まだよ!全国民に配ると言っても遅いわね、もう店にマスクが出回り始めたから、ありがたみがなくなるわ」「こんな田舎でもマスクが姿をけしましたか?」とハト子。「マスクが買えないらしい、とテレビで報道を始めた時、近くのドラッグストアに行ったら山積みしてあったけど、翌日、きれいに無くなっていたので驚いたの」あまりの速さに隠しているのではないか、と思ったそうだ。「ルリ子さんはマスクを持っていましたか?」「私はインフルエンザ予防に冬場は欠かせないから、たくさん押入れにしまっていたの。100枚はあるし布マスクも愛用しているから困らなかったけど、医療や介護関係の方々は困ったようね」ルリ子さんは鼻に皺をよせて怒っていた。「なんでもかんでも上国に作らせているからこういう事になるのよ。本当に政府も商売人も平和ボケなんだから。私はね、政府の危機管理体制を疑うわ!だいたいね、いつ大津波がくるやら、首都直下型地震が起きるやらわからないのにオリンピックなんか呼んできて、大金を湯水のごとく使って、何を考えているのヨ!」コロナで右往左往している政府を見ていると笑ってしまう、と彼女は言う。マスク一つで国中が振り回された、戦争中でもあるまいに。新型コロナの対応でも、彼女は辛辣だ!「以前、新型インフルエンザが起きた時も水際対策は完璧だ、と厚生省が威張っていたけど、熱を測っていたのよね、発熱していないか検査したのは良いけど、潜伏期間を忘れているんじゃないの、とテレビを見ていて呆れたわ」潜伏期間中は熱など出ない、水際対策を完璧にするなら外国から入ってくる人間をすべてシャットアウトしないとダメである。今回のコロナも完全なシャットアウトはできなかった。それどころかヨーロッパから帰ってきた連中を隔離もしないで、公共交通機関を使って帰宅させるマヌケさ!クルーズ船の日本人客も同じような対応だった。いくら初めての事でも、政府の方々は優秀な頭をお持ちだろうに、理解できない、とルリ子さんはお怒りだ。「海の傍にオリンピック村を作っているけど、津波が来たらどうするのかね?南海トラフ巨大地震は明日きてもおかしくないのよ。それとね、大勢の外国人観光客に富士登山を許していたけど、噴火したらどうするの、明日噴火しますから、なんて山は言ってくれないのに、大変な犠牲者が出て世界中から非難の的になるわ。御嶽山がいい例よ」「ルリ子さんのおっしゃる通りです。政府は言い訳などできる立場ではないのですが、何かあったら、責任を取って辞めます、と言えばよいのだから、こんな気楽なお商売はありません」ハト子も同調する。「まあ、昔から日本国の政府は危機管理能力などないのがわかっていますけどね」あれば、赤字国債を毎年刷って刷って、借金大国にするなんてことにはならない。「国民の食糧自給率だって悲しいほどです。自国第一の国が増えてくるのに、こんなことでは国民が飢え死にします」ルリ子さんの剣幕にハト子とタカオは大きくうなづいた!