鳥と山野草の話

鳥類と山野草、主にシダ植物を書いたりします。

イヌシダ通信 南夜濁国の憂鬱

貴重な絶滅危惧種のトリ、コウノトリ嘴子が南夜濁国から呼び戻されて後任に抜擢されたのが新入りの隼タカオだ。入れ替わるように南夜濁国特派員として問題アリの隣国へ飛んで行った。獲物をゲットするときは世界最速と言われる時速300キロで、垂直降下するハヤブサだが、体はカラスほどで猛禽としては小ぶりである。彼は以前都内で土砂降り雨のとき、マンションのベランダに避難してきた伝書鳩ハト子と出会い、イヌシダ通信社に誘われたのだ。コウノトリ嘴子の交代要員として南夜濁国へすっ飛んで行ったが、一週間ほどして戻ってきた。状況を逐一知らせろ、とハト子やデスクに言われていたからだが、それはパソコンメールやテレビ電話でも良かった。戻って来たのは、単にタカオが俊足で海の上を飛んで来たかったからなので、他に理由はない!

「わざわざ戻って来るなんて、ご苦労様ね」ハト子、カブトムシの幼虫を添えて紅茶を出してやる。「あっ、ありがとうございます。わあ、カブトムシだ!これ、大好きなんです!南夜濁国には売っていなくて。それに、なんだか国民全体がピリピリしてるんですよ。まあ、一番は学大統領だけど。触ると感電しそうです」幼虫をついばみながら、タカオ、目をクリクリさせる。「あの手この手でくだらない政策を口走っているけど、全く役に立たないし、こちらの政府や国民をイラつかせるだけなのにね。向うのメディアは大統領に忖度する記事しか書かないので、あちらの国民は何が真実かわからないのよ。まるで戦時中の我が国みたいね」「そうなんですか」「そうよ、北夜濁国みたいだったと聞くわ。激しい言論統制ね。軍事政権だったのだから、都合の悪いことは書いてもしゃべってもダメで、ばれると憲兵がすぐやってきて連行されたのよ、怖い国でしょ」「そうですか、確かに北はそういう感じですが、南は憲兵ではなく、反日思想の住民が騒ぎますね」「それを反日で凝り固まっている学大統領がコマとして利用しているのよ」「反日って、この国にもいますね、ハト子さん。オレ、自分の国を売るような政治家やメディアがいるなんて、あっちで聞いたんです。びっくりした!」タカオは大きな黒い瞳を瞠り、冠毛を立てる。「あ、鷲山雨夫のことね」そうそう、とタカオはうなづく。「あのヒト、前総理だったヒトですよね、そして東大を出ている大金持ち」「まあね、でも、東大出の政治家は多いけど、ろくでもないことを口走って墓穴を掘る者が多いわ。東大の常識は世間の非常識のようね」ハト子、紅茶のお代わりをすすめる。

学大統領は日本の申し出をいったん受け入れて、自分の国から輸出する物をきっちり管理をする、と一言いい、国民には経済を安定させるために、しばらく目をつぶってくれ、と態度を改めれば良いのに、それができない愚かな大統領だ、とハト子は言う。「彼は任期の後、うるさい政治家やメディアにつるし上げられるわよ。下手をすると、国を窮地に陥れた罰として、逮捕され有罪になるかもね。きっと、今頃、アメリカあたりに資産を移して、身内は留学なんかさせて国から逃げられる準備を整えているかもね?」「南夜濁国は歴任の大統領を監獄に送るのが通例になっていますものね」「いつ、向うに帰るの?」「明日の早朝に飛び立ちます」いったん本州を南下して福岡からひとっ跳びだそうだ!